小屋について
「百年の小屋」は、四つの小さな木小屋から成っている。全て幅900mm、軒高1800mm、棟高2250mmと共通した寸法をもち奥行だけが異なっている(奥行1800mmの書斎兼寝室、900mmの便所、600mmの押入、300mmの祈祷所)。これらは45mm角の赤松、90mm幅の杉、厚さ9mmのベニヤで組み立てられ、一方の妻側に直径300mmの丸窓、もう一方には高さ1700mmの観音開きの戸が取り付けられている。電気、ガス、水道がひかれることはなく、蝋燭や懐中電灯で明かりをとり、近所で汲んだ水を生活用水にし、料理はせずに出来合わせのものを食べて過ごす。
書斎兼寝室には、杉板同士を打ちつけて作った机や、角材と板を組み合わせて作った椅子が置いてある。それらは組み合わせ方によって床座用にも対面式のテーブルにもなる。断熱も仕上げも貼らない内部は骨組みがむき出しになっているので、その骨組みに板を架け渡して棚のようなものもこしらえている。本や生活用品を置くのにちょうど良い奥行きを持ち、椅子座のときには容易に手が届くので大変機能的にできている。木片に打ちつけた蝋燭一灯だけで小屋の中は十分に明るく、字も書ければ本も読める。就寝時には椅子を机の上にあげ、布団などを押入から取り出して床に敷いて横たわる。
便所は床から少し上がったところに一辺300mm強の四角い穴が穿たれ、そこに災害用の簡易式の便器がおさまるようになっている。ダンボールを組み合わせた土台にポリ袋をかけ、プラスチック製の便座を載せただけの代物だが、同封された凝固剤をふりかければ1ℓ程度の水分を固めることができる。ここにも棚をつけてあるので、紙や消臭剤などはそこに並べている。便器に被せる蓋も急ごしらえでつくったが、汚物は毎回ポリ袋ごと処理するので、臭気が上がってくることはない。便所、書斎兼寝室だけが内側に入れる小屋なので、掛け金で鍵がかけられるようになっている。ただ、便所の丸窓は穴をあけたままの状態なので、早急に対処法を考えなければならない。
押入は骨組み自体に水平に板をかけて棚を設け、上下二つに分かれている。上部には直径30mmの丸棒を架け渡して衣服などをかけられるようにしてあり、その他の衣服や使用頻度の高い道具類は棚の上に、また、工具などの重いものや、寝るときに使う布団、枕などは棚の下に置いている。市販されているプラスチック製の半透明の行李のようなものがそのまま入るので、常に整頓された状態を保つことができる。
祈祷所は、押入と同じように棚で上下に仕切られ、白い布を一枚かけてある。ここは土地の神々を奉るための小屋で、その土地の土や草、清めの塩や酒などを納めて地霊に祈りを捧げる。押入と祈祷所は中に人が入るつくりになっていないため、外からのやりとりのみになる。しかし、観音開きを開け放ち、内側を晒した状態で前に立つと、脳裏に巨大な空間が広がる。押入や祭壇には、それだけで空間を生み出す能力がある。
これら四つの小屋を組み合わせるとちょうど一坪の大きさになり、普通免許証で運転できる2tトラック一台で運べる算段になっている。また、最大のものでも一人で持ち上げることが可能なため、台車や梃子を使えばかろうじて一人でも移動ができる。暑いときには陽射しの方向を避け、微かに吹く風の方向に向ければ、小屋の中を風が通り抜けて幾らか涼しい。土地の形状や天候によって配置が変えられるので、分散型や集合型など、無限の可能性が広がる。
小屋以外の土地は全て共有の空間として使っている。芝生であれば寝転ぶこともできるし、畑であれば農作物も採れる。森はアスレチックの遊具になり、海辺なら海水浴を楽しむこともできる。ただし、それらの空間は生活必需品を備えた閉ざされた空間があってこそ成り立っている。小屋という孤独の空間があって初めて「ハレ」の場が生み出される。